ロバート・チャールズ・ウィルスン『クロノリス』
ようやく読み終えた。読みづらいってことはないけど、とにかく読むのに時間のかかる話でした。ただ時間をかけるだけの価値はあるかもしれない。
西暦2021年のタイ、バンコクに突然出現した巨大な記念碑。そこには20年後の日付と「クイン」なるものによる征服の記録が刻まれていた。この20年後の未来から打ち込まれた「クロノリス」は、その後もアジアの各地に現れ、都市を破壊していく。この「未来からの侵略」に世界は大混乱に陥り、人々は不安に怯える。20年後に現れるクインとは何者なのか? 何のためにクロノリスを打ちたてるのか……?
こういった設定を、この事件に巻き込まれた比較的に平凡なアメリカ人を視点に語っていく。2021年から2041年まで、世界とアメリカがどう変わっていくかを、主人公の視点からあぶり出す。同時に、主人公はたまさかの偶然で、クロノリスを調査し、対抗するアメリカの国家機関とかかわるようになっていく。
『時間封鎖』でも思ったことだが、SF設定の壮大さというか、ハッタリ力の強さに舌を巻く。20年後の未来からやってきた「クロノリス」という設定は、何かそそるものがある。だけど一方で、物語は意外と地に足が付いている(悪く言うと地味な)感じがするのが面白いというかなんというか。ものすごいハッタリ力を駆使して描くのは父と娘の物語だったりする。その物語も、しかし別に悪くはない。ウィルスンは、何はともあれ「人間が描けている」という作家で、別にこんな壮大な設定がなくても、普通に面白い小説になりそうな気もする。上で書いた「時間がかかる」というのは端的に言うとこの物語パートが読み応えがあるということで、だからそれ自体はいいことだと思う。
だけど、ちょっと無理難題ぽい言い方をすると、だからこそこのスンゴイ設定があんまり生きてない気がする。『時間封鎖』の時にも思ったが、そんな設定の割に物語と設定がなにか乖離している気がする。設定の面白さ、その「謎解き」パート、そういうものもあるのだが、物語パートの大半はそれと関係がない。信仰の問題だったり、親子の問題だったり、父との和解だったり。ミルクとコーヒーが分離したカフェオレのようなもので、それぞれ単品でおいしいけど、混ぜてくれないと、と思ってしまう。
高いものを求め過ぎかなあ。少なくとも、今年の海外SFランキングでは上位に入ると思います。でも俺は、もうちょっと違う何かがほしいんだよな。