S-Fマガジン2010年2月号
S-Fマガジン 2010年 02月号は創刊50周年記念特大号パート2、国内作家編。
飛浩隆 零號琴
新連載。第1話としては非常にソツがなく、後がたのしみ。+2
山田正紀 フェイス・ゼロ
これはちょっと今ひとつ。主人公の特殊能力がそうだとなぜそうなるのかというところがきちんと説明されておらず、なんとなく読者に意外性を印象づけさせようと頑張ったのみに留まっている印象。-1
椎名誠 問題食堂
暴力的でコミカルな掌編。いきなり遠未来になったところからはノレなかったが、冒頭のいさかいからいきなり暴力沙汰に発展するくだりが楽しい。0
瀬名秀明 ロボ
ちょっとこれはいかんでしょう。当人の意図はさておき、どう読んでもここでいう「自然史家」には作者自身の像を重ねあわせているようにしか読めない。そして自身をこう描いてしまうということに気持ち悪さを感じてしまう。語られているテーマは興味深く読んだのだが。-1
上田早夕里 マグネフィオ
認識・脳をテーマとしたSF。主人公自身も脳に障害を負って自分の好きな女性の顔も認識出来ないという設定や修介との会話のようにビターな味わいが上手い。+2
吾妻ひでお 僕と彼女の微妙な関係
うーん。全然新しくはないけど、この人はこのまんまでいいのかもしれない。+1
谷甲州 ザナドゥ高地
久々の航空宇宙軍史もの。相変わらず渋いがディティールを楽しむべきか。正直、そこまで読み込めなかったが、谷甲州はこの程度の内容でも読ませてしまうなと思った。+1
牧野修 小指の想い出
牧野らしいグロテスクさと上質なエンターテイメントの見事な融合。老人だけが入れる無法地帯、(ボケてるので)記憶を失った主人公とくれば面白くないわけがない。+3
とり・みき SF小僧の花嫁
これどうなんだ。1年後に読んでもわかるのかこれ。直近のネタを拾いすぎでは。-1
水玉螢之丞 SFまで100000光年スペシャル
まあいつもどおりの楽しさですよ。+1
神林長平 確かな自己、固定・変換・開放
ちょっと小説としての体をなしていない。シノプシスを読んでいるような気分になる。シリーズとしては前の話も大して覚えていないから読み進めづらかったし、大して面白い話でもない気がする。-1
林譲治 古の軛
AADDもの。シリーズ番外編? オチというか落とし所は「まあそんなところかなー」という感じがする。しかし、ストリンガーの設定は今ひとつ納得感がないというか、緻密に構成されているというよりその場その場で作者が設定を都合よく解釈しているような不安が残る。俺の読解力がたりないのだろうか。+1
梶尾真治 減速の蹉跌
これもちょっとシノプシス的。もうちょっと掘り下げるところを掘り下げればあざとく泣かせられたのではないか。惜しい感じがした。0
新城カズマ 議論の余地はございましょうが
これはひどい。ここ10年で読んできたSFマガジンに掲載された文章の中でも最悪。すぐに古びそうなことをだらだらと開陳するだけの駄文であり、その上演説をしているだけで小説の体をなしていない。読んでいて怒りがこみ上げてきた。-3
北野勇作 路面電車で行く王宮と温泉の旅一泊二日
これは北野勇作のここ最近のSF短編で最大の収穫じゃないだろうか。「路面電車」のような馴染みのある単語と異形な怪物と組み合わせることで喚起されるイメージが素晴らしい。+2
小林泰三 囚人の両刀論法
小説としてはいかがなものかという構成ではある。対話だけになっちゃっている。囚人のジレンマを題材にしたSF(そんなのが他にどれだけあるかはわからないが)としては、しかしなかなか面白い。「意外な結末」もよかった。0
田中啓文 カッパの王
途中まではなかなかいいじゃん、とか思っていたが最後の一行で脱力した。そう来ますか。そうですか……。0
横山えいじ おまかせ!レスキュースペシャル
なんだか懐古調。スペシャルだからだろうけど。0
冲方丁 メトセラとプラスチックと太陽の臓器
これは面白い。数年前に書かれたエッセイの採録という体裁で描かれるデザイナーベイビーの世界。最初の作者注でうまくネタを割っているやり方が巧みだ。+3
小川一水 アリスマ王の愛した魔物
数学ネタSF。あるいはコンピュータの万能さについて。ぶっちゃけ計算よりはデータソースのほうが重要ですよね、って読んでいて思うがそれは野暮というものか。+2
円城塔 エデン逆行
これは面白い。細部はよくわからないがひさびさにヒット。あまり韜晦していない感じに読めたが、まあ実際のところはよくわからない。+2
coco SFマガジンの早川さん・スペシャル
いつもどおり。ドラマCDはたのしみです。+1
山本弘 地球から来た男
ちょっと感心した。そうか、政治的なテーマをこう描くかと。「まったく身体改造が行われていない人間が、身体改造を必要とする場所に密航する」という設定で未来社会をうまく描きながら、正しく政治的。山本弘は、自分の主張を小説で書くときは主人公に直に言わせるというストレートな方法をよく取っていた気がするが、この話は小説の構造自体にうまく織り込んでいる。+3
森岡浩之 気まぐれな宇宙にて
単純に面白かった。カイパーベルトにワームホールが見つかるという設定はありがちだが、「次にどこに飛ぶかは誰にもわからない」という設定を導入することで物語に意外なふくらみが出ている。ありそうでなかった感じがする。シリーズ化して続けて欲しい。+1
菅浩江 夢
イディオ・サヴァン的な人たちを集めてSETIデータの解析をする、というシチュエーションを、当のイディオ・サヴァンの立場から描く。50周年スペシャル的な雰囲気が残念ながら少し鼻につく感じがするが、面白くはある。+1
野尻抱介 コンビニエンスなピアピア動画
もう野尻先生は遠いところに行ってしまったなという感じ。これはまあ正しくプロパガンダ小説とみなすべきなのだろう。ニコ動(技術部)に未来を見てしまった人のプロパガンダ。読むと案外面白いのだが、プロパガンダとしては説得力というか誘引力に欠けるのが難点。ソレが好きな人にとっては大傑作なのかもと思う。0
西島大介
雰囲気のみのイラストだがキマってる。+1
ここまでの幅広い作家を揃えられる媒体は存在しないという意味で、この号は00年代の日本SFのショウケースとして、後々までも親しまれることになるだろう。特に森岡浩之のように次いつ載るかわからないレベルの作家がかなり多い。2500円とかなりの値段ではあるけど、ぜひご家庭に一冊取り揃えておきたい。
もっとも作品の質は意外とばらばら、というか個人的には気に入らないものもけっこうある。それに関連するが、ちょっと食い足りないというか、梗概のような作品がわりと多い。多くの作家を収めたい関係上、枚数指定が厳しかったのかなと邪推している。
内容については、50周年ということでそういうテーマの小説もあるのかなと思っていたが、意外なほどみんな無頓着だったようだ。菅浩江が律儀にそこを取り入れているぐらいか……。まぁ、これはそういうものかもしれない。ただ逆に、「今」を取り入れすぎて失敗しているようなものが多いのではと感じた。最新のテーマを取り込むのが悪いことだとは思わないが、せめて1年後にも古びていない強度をもって書いて欲しいものだと思う。
ちなみに、先日出たNOVA 1とはわりと著者がかぶっている。それはそういうものだから仕方ないが、両方に掲載した著者の作品をあえて比較をすると、個人的な好みはSFM掲載作の方が近い。北野勇作、山本弘、円城塔はSFMの方が好み、小林泰三と田中啓文は比較不能だが強いていうならSFMの方が好みかもというぐらい、飛浩隆もSFMの方が面白いような気がするけど、こちらは連載なのでまだなんともという感じ。牧野修は互角。でも牧野を読んだことがない人に先に勧められるのはSFMの方だろう。