“The Merchant and the Alchemist’s Gate” by Ted Chiang
あのテッド・チャンの新作中編。たぶん、すぐに訳されるんじゃないかと思うけど粗筋もこみで紹介しよう。
物語全体は、商人がカリフにお話を物語るという体裁をとっており、舞台はアラブはバグダッド。バグダッドの市場に用のあった商人は、そこで不思議なお店をみつける。非常に奇妙な、しかし優れた技芸のものばかりを売るこの店の主人は、自ら錬金術師を名乗る。
錬金術なるものに疑いの目を向ける商人に対して、錬金術師が見せたのが「門」。何かリングのようなものだがこれが一種のタイムトンネルで、一方からたとえば腕を通すと、もう一方からは何も出てこない。そして数十秒後にリングの反対側から、さっき通したはずの腕が出てくるという次第。
そして、これは「秒の門」だが、20年の未来/過去とつながっているという「年の門」の存在を錬金術師は明らかにする。
というのがストーリーの前準備で、そこから、この「年の門」を使って過去や未来に赴いた者たちの顛末がぜんぶで3本、語られる。そして最後に商人自身が……というお話。
舞台は少し過去のアラビア(具体的にはバグダッドとカイロ)なのだが、雰囲気はファンタジイというよりはSF。タイムトンネルの設定もそうだし、過去と未来は基本的には変えることができず、起こった事象は変えられない(作中の言葉を使えば「アッラーの定めたもうたことは受け入れなければならない」)という設定がされており、パズル的というか、因果関係の狂ったような話がキモになっている。
ただまあ「よくある時間SF」といってしまえばそれまでで、特に藤子・F・不二雄の作品とよく似た感じがしていて「あーありがち」と思ってしまうのも確か。なにせアイディアとしては研究しつくされている分野だから、いまさら新しいことをやれというのは無茶な要求ってもんでしょう。ただ、話の骨格としてはありがちなんだけれど、読んでいてつまらないということはまったくなく、なかなか面白いですし、やっぱり結末はちょっといいんですよ。
だから悪くはないんだけど、「あなたの人生の物語」とか「理解」とかにはまりこんでしまった人達からすると、ああいうブッ飛んだところはないわけでぬるい作品と思われるんじゃないかな、などと思ったわけでした。オレは好きだけど。中おすすめ。
amazon のリンクも張っとくけど、 fictionwise で購入できる F&SF 誌の電子版でも読むことができる(2007年9月号)。ただお金と時間に余裕があるなら書籍版も悪くない。
The Merchant and the Alchemist’s Gate
さてそんなテッド・チャンですが今度のワールドコンで来日しまして、インタビューの企画も進行中ですから、ご期待ください。ってワールドコンのページみたらいまだに unable to attend になってるなあ。直せよ!
are you sure that you are the real jmuk????