張系国『星雲組曲』

This entry was posted by on Thursday, 10 May, 2007

星雲組曲

国書刊行会『新しい台湾の文学』第11回配本となる台湾SF短編集。作者の張系国は、かつてS-Fマガジンで1990年7月号に「台湾SF特集」として3本の短編が訳載されたことがある(その短編はどれも本書に収録されている)。

読んでみると、なんというか全体的に懐しいというか、やや古めかしい感じのSFという印象。そして面白いものとつまらないものの差が激しい。面白いやつは猛烈に面白いのだが、つまんないものは何がいいやらぜんぜんわからん。その「つまらなさ」の源は登場人物造形への違和感のようなものであるように思えたのだが、解説でその点が触れてあった。

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その一方、張系国はSFの地域的固有性を強く意識している。……中略……張系国は、science fiction である以上、科学と物語という二要素が合体していなければならないが、その関係について地域差があることを次のように述べる。……中略……科学が世界的共通性を持っていても、物語そのものは地域的固有性から生まれてくると考えているようである。

1970年代〜80年代前半、台湾という微妙な立ち位置、またそこからアメリカに行った者たちの民族的アイデンティティに作者の興味はあるらしい。なるほど、そのような興味で読むのだったか、と少し腑に落ちた感があった。そういうのにさっぱり興味を抱いていなかった私は「読めていなかった」ということだろう。

とはいえ、ぜんぜん面白くなかったかというとそういうことはなく、私が読んでも面白いと思える作品もあった。いくつかかいつまんで紹介しよう。面白いと思った順。

「シャングリラ」

SFM90年7月号にも訳載された作品の新訳。SFMでのタイトルは「モノリス惑星」。このタイトルの方が実態をあらわしているように思う。宇宙探査員たちが到着した惑星には、大小さまざまな方形の石が転がっていた。一方が黒でもう一方が白色のその石は実は知性体だった。主人公たちがそこで麻雀をやると……というところからトンでもない方向に転がっていくバカ麻雀SF。結末までの展開は読めるけれども、やっぱりそれがおかしいのがすばらしい。

「銅像都市」

SFM90年7月号にも訳載された作品の新訳。SFMでのタイトルは「銅像城」。とある惑星では、政変のたびに既存政権が建てた銅像を倒し、より大きな銅像を建てるということに血道を挙げていた。政変につぐ政変の歴史は1000年にもわたり、銅像はどんどん巨大化し、奇妙に変形を遂げ、やがて銅像はついに人々の信仰の対象となる。作者としては、あるいは政変の多い惑星や、意地でも銅像を建てたがる人々を描きたかったのかもしれない。でも、どんどん銅像が巨大化していくさまは、はじめは荒唐無稽だったが、ついにそれを突きぬけて一種の感動とも茫然自失ともつかない境地に辿りつく。おもろい。

「夢の切断者」

脳に直接接続するバーチャルリアリティが発達した世界で、人々はMMOみたいな(というかセカンドライフみたいな?)ゲームに興じている。ところがその影でひっそりと、既存芸術、とくに文学や詩が衰退しつつあった。バーチャル世界の監視人みたいな仕事をしている主人公は、反対派に誘拐され、彼らに協力を迫られる……という設定はありきたりなもの。けれども、主人公が見る反対派の実態は、互いに「自分の方が格上」みたいなことで派閥を作り、たがいにいがみあう詩人、作家、文学批評家しかなかった、という意地の悪さに思わず笑ってしまう佳作。

「子どもの将来」

産児制限のため、子どもを生むのにもくじ引きになった未来社会。子どもが生めるようになったらなったで、代理母の費用、そのほかもろもろの費用がかかる。そのうえ、子どもの遺伝子改造まで持ち掛けられる……といったバカバカしい展開が皮肉っぽく続く。オチも一捻りが効いていて、筒井とかみたいな、ある時期のSF短編を彷彿とさせる。

「緑の猫」

これはかなりリアリズム小説寄り。台湾を飛びだしてニューヨークに住んでいる女性が主人公。夫はエンジニアで、ニューヨークを去り台湾に戻ってしまい、折を見ては主人公に台湾に戻るように連絡してくる……といった話。で、ニューヨークで出会った、おたくっぽい奇妙な青年から奇妙な緑の猫の像をもらうのだが……。超自然的なところも薄く、幻想味も強くないのだけれど、なんとなく好き。ほかの作品みたいに、カリカチュアライズされたようなところがないからかもしれない。あるいは、この青年のおたくっぽさと間違いすぎているっぽいアプローチの仕方に共感を感じているからかも(笑)。手塚治虫の同名作品へのオマージュなのだそうだが、そっちがたぶん未読なので、何がどうなのかはちょっとわからなかった。

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