映画『キャプテン・アメリカ』
見てきた。ものすごく空いていて今後の展開が危ぶまれるレベル……。
第二次大戦下のアメリカ、愛国心に燃えるが肉体的には貧弱な若者、スティーブ・ロジャーズはひょんなことから軍の「スーパーソルジャー計画」に参加し、超人血清を投与される人体実験を受けることになる。実験は成功し、強力な肉体と高潔な精神を身につけたスティーブだが、実験直後にスパイにより博士が殺害され、スーパーソルジャー計画は凍結されてしまう。結果、スティーブに与えられた任務はといえば、星条旗をモチーフにしたコスチュームに身を包んだヒーロー「キャプテン・アメリカ」となって各地へ子供向けのショーに出演し、国債の購入を呼びかけるというもの。
そんな中、イタリアに駐留するアメリカ軍への慰安に赴いていたスティーブだが、自分の親友が近隣のナチス・ドイツの基地に囚われていることを知る。単身基地に乗り込んだスティーブは親友を含む部隊の救出に成功。これが「キャプテン・アメリカ」としての最初の活躍となる。そしてその救出活動の家庭で、ナチスの超科学研究部門「ヒドラ」がナチスから分離独立し、世界征服に向けて活動を開始したことを知ったスティーブは、ヒドラとの戦いを開始する……といったあらすじ。
まあ、ぶっちゃけて言うとストーリーなどわりとどうでもいいのだけど、第二次大戦中のアメリカ、敵はドイツ、というストーリーで、ミリタリーものではなくてヒーローものをやる、というのは21世紀の今となってはなかなかの難物だったのではないかと想像する。うっかりすると戦争映画になってしまうが、そこはこの映画の主眼では多分ない。長い第二次大戦のどこでどんな活躍をしたのかというのにも、映画的な説得力をもたせるのは難しい。
そんな訳で、世界征服を企む悪の秘密結社を敵として設定する、という点は工夫しているなと思った。一応、ナチス・ドイツは映画の最初のほうでは言及されるけど、あっという間にどうでも良くなる。
ただ、そんな書き割りっぽい設定を受け入れられるかどうかは、この映画を受容できるかどうかの鍵である気がする。私はわりと気に入ったけれども、嫌な人は嫌だろう。
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そもそも「キャプテン・アメリカ」というヒーローは、1940年代、本当に第二次大戦中に最初のエピソードが掲載された作品だ。まあぶっちゃけて言うと国威発揚のためのキャラクターであり、当時はキャプテン・アメリカは本当にナチス・ドイツと戦っていたのだ。映画の中でもキャプテン・アメリカはショーに出演し、子供が買い求めるコミックがあったり、映画が製作されていたりしていたけど、あそこのところは我々の世界の現実と同じだったのではないかと思う。
つまり、この映画のなかの世界でも、やっぱりキャプテン・アメリカというのは国威発揚のために作られたプロパガンダヒーローだったわけだ。ただ単にたまたま本当に超人血清を投与された人がショーに出演してるというだけで……なんとまあ、こんな設定よく思いつくものだ。こういう事情なしにあのシーンを見ても特にどうとも思わないと思う。けど、知ってしまうと現実と映画の中の世界が微妙に交わって重ならない不思議な瞬間であった。正直なところ、あのシーンは見ていてひっくり返りそうになった。
ところで、コミックの中のキャプテン・アメリカは戦争が終わって復員し、アメリカ国内でソ連のスパイとかと戦うエピソードが作られていた。だが人気がなくなっていったん打ち切り。その後、実は本物のキャプテン・アメリカはナチス・ドイツとの戦いのさなかで生死不明となり、実は海の底で氷漬けになって冷凍冬眠状態だったのを発見されたということになり、復活。復員後のエピソードは「別人が同じ名前で活動していた」ということに再設定されたのだった。今回の映画もこれを踏襲し、現代、氷原の中でキャプテン・アメリカを発見するシーンから始まっている。
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私は面白く見たけれどもお勧めできる作品かというと悩ましい。
ミリタリーを期待すると損をする。上にも書いたけれども、たぶん意図的にヒーローものを志向している。描くべきはキャプテン・アメリカの活躍であって、ヒーローの活躍で戦争が集結するようなことをさすがに今のこの時代にフィクションでも描くのは難しい。
アクションシーンもわりとカッコイイけど、CGがバンバン出てくるような派手な感じではない。かと言ってミリタリーっぽい感じでもない。ヒドラが使うのは銃ではなく謎のビーム兵器で、撃たれた人間はかき消えてしまい、血が流れるような悲惨な演出はかなり少ない。敵は何しろ秘密結社なので、戦闘員は覆面をしていて誰が誰やらわからず、組織の長にのみ忠誠を誓うカルト集団と設定されている。
まあ、すごい期待はしないほうがいいかもね。割といいですよ。
あと3D。あれはちょっとナイね。