谷川史子『他人暮らし』
高校のころからの親友同士、それぞれの人生を歩んでそれぞれバツイチ、キャリア女子、新婚別居になった3人がふとしたきっかけで1ヶ月間限定の同居をすることに、というシリーズの表題作に短編一本を加えた作品。この作者では『P.S.アイラブユー』や『おひとり様物語』の流れの一冊。ちなみに同時刊行の『吐息と稲妻』はこれまでどおりの少女漫画。
『P.S.アイラブユー』も『おひとり様物語』も好きなのだが、この作品のポイントは、この作者にしてはかつてないほど「アラサー女子」的な存在に肉薄しているところかもしれない。それは離婚した相手との再開であったり、会社で少し気になる年下の男子だったり、新婚別居さんが相手に対して抱く感情であったりするわけで、そのなかでは、結婚相手の条件であるとか、キャリア女子の悩みであるとか、わりと身も蓋もないあたりを描いている。
だが驚きなのは、それでもなお、谷川史子的な「ふわふわした少女漫画」という骨格がまるで揺るぎないということではないかとおもう。ほとんどいつもの調子で高校生が主人公の話と大差ない構造をとっている2話もすごいが、3話のクライマックスで泣きながら自分の結婚相手の条件(2chでは罵倒されるレベル)をとうとうとまくし立てるところなどがなぜかコミカルですらあるあたりもすごい。
ここでおれはべつに、よくネットの感想なんかでよくあるような、あえて欠点をあげつらっているように見せて(ほめてます)と但し書きを書きたいのではなくて、わりと素直に感心している(つもり)。こういうキャラクター設定やテーマだと、もっと重たくリアルな感じで描いてしまえる作家というのはむしろいっぱいいる。けど、それだけじゃ息が詰まるわけで、どことなくふんわりした雰囲気のあるストーリーを、こういうキャラクターで自然にやってのけるその手腕たるや。オンリーワンといっていい作家的な資質であろう。
なんて小難しい言葉遣いをするようなものではないですね。まあ、面白かった。ふつうにおすすめです。