たまにしか英語の本は読まない人間の見解

This entry was posted by on Friday, 5 November, 2010

やる夫が英語の小説を読むようです

納得出来るところもありつつ、なんかちょっとそれどうなんだろ、というところもあるので、ちょっとツッコミをさせていただきたい。ちなみに、私はあんま英語の本は読みません。せいぜい年に数冊ぐらい。技術書は読むけど、小説はね。あと今回の文章の想定読者は、↑を読んで「おお、おれも英語の本でも読もうかな」と思った人への忠告です。ふだんからバリバリ英語を読んでるような人にはあてはまらないけど、普段全然英語に接してない人がこういう文章を読んで陥りがちなところをピックアップしたい。

本当はもっとみんな英語で読んだほうがいいと私も思っていて、あんまりおどすのは良くないと思うんだけど、「ちょっとそれどうなんだろう」って思ったりするので。

よくある誤解1: 原文で読んだほうがニュアンスが伝わる

中学高校で英語をやったとしても、ふつうは英文読解、つまり「何が書いてあるか」を理解するところまでがせいぜいです。でも文学では細かいニュアンスが(もちろん)重要。読みなれていないとニュアンスはわからない。何が起きているのかはわかっても、それをどう読めばいいのかってのは案外わからないものです。本文では訳者がニュアンスを拾いきれていない例がありましたが、実際には翻訳者というのはプロなわけで、そこらの素人よりも英語の文章のニュアンスを日本語で表現することに長けています。実際、原文で読んだ小説の翻訳が出たので日本語で読んでみたら「ああそういうことだったのか」と思った、みたいな場面はあるものです。

慣れもあるので、ある程度まで読み込むと大丈夫になってくるんですが、それまでは本当にわからない。なんかすりガラス越しに眺めているようなイメージです(この例えを続けると、翻訳を読むというのは原風景をもとに模写した絵を眺めるようなもの、ですかね。原風景そのものではありえないし独特の歪みもあらわれがちですが、すりガラスのぼんやりした図像よりはマシだと思う)。

よくある誤解2: 好きなジャンルの本から読むべき

同意したい面もありますが、難しいところです。たとえば私はSFが好きですが、SFってのは異常な描写がけっこうあるので、何が何だかわからない、自分が誤読しているのかどうかもよくわからない、みたいなことがありえます。晦渋な文芸作品が好きだとしても、そこからチャレンジするのはおすすめしません。わりと単純なフォーミュラフィクションとかがいいんじゃないかと思います。なぜかというと、こういう話は多少単語の意味がわからなくても話の展開が読めるからです。

ただまあ私もなんだかんだいってSFとかファンタジーとかばっかり読んでいるので、読みたいものがあるのに敢えて遠回りするのがいいことなのかどうかはよくわかりませんが。

よくある誤解3: 辞書はひいちゃダメ

いやひくでしょ、辞書。確かに単語一つ一つごとに辞書をひいたり英語の教科書みたいに逐語訳を作ってくのは全然だめで、もっとさっさと読むべきだと思いますが、辞書はひきます。あった方がいいです、絶対。Amazon Kindleって英英辞典が組み込まれてて、読みながら画面の下に単語の意味を表示させたりできるので、すごく便利。あ、ちなみに辞書といっても分厚い辞書はいらなくて、コンパクトでハンディなものを使います。語彙数が多くてもあんまり意味がない。見慣れない単語は英語話者にとっても見慣れない単語なので、小さな辞書に載ってないような単語はわからなくてもなんとなく推定して読めるように、ふつうの小説というものは書かれているものです。

基本語彙といってもそうそうキチンとおさえているわけでもない。もちろん基本は辞書とかひかずに読むけど、どうもわからなくなってきたな、というタイミングでちょっと使って、みたいな感じがおすすめで、その辺のリズムは自分で作るべきですが、辞書をひかずに頑張るとかやってもほんとうに意味が分からなくなるので。特にはじめの頃。

よくある誤解4: 英語の本が世界の標準

そんなことはありません。スペイン語圏ではスペイン語の小説が書かれ、ロシアではロシア語で小説が書かれ、中国では中国語です。先日ノーベル賞を受賞したリョサを読むならスペイン語を勉強したほうがいいのかもしれませんよね。

もうひとつ面白い事実を指摘すると、日本はまれに見る翻訳文化で、世界各国の文学が日本語に翻訳されています。アメリカで英語の本ばかり読んでいると、ラテンアメリカのマジックリアリズムは本当に有名どころしか読めないけど日本語にはかなりマニアックな奴まで訳されてる、みたいなことが実際あります。……らしいです。

それから、英語で出た本がたとえ多いとしても、日本語に翻訳されるということは、日本人の編集者によってある程度フィルタされた、それなりにクオリティの保証された作品であることが多いということでもあります。もちろん、コアなファンしかいないジャンルで翻訳がなかなか出ないとか、そのわりにクソみたいな作品が訳されちゃうとか、そういうこともありますが、確率的には悪くないはず。翻訳小説にはそういう利点があるのは確かです。

よくある誤解5: 短い本の方が読みやすい

これは人にもよりますし作家にもよりますが、短編よりは長編の方がおすすめです。短編のほうが短いし、どうにか読み通すまでにかかる時間は短いんじゃ、って思うかも知れません。それはそのとおりです。でもやっぱり短編だと細かいところがよくわからない。気の利いたオチのはずがぼんやりと読み飛ばしちゃったりとかいうこともあります。長編の場合、読み進めていくことで蓄積されるものがあり、途中ちょっとわからない箇所があっても意味が通じる、ということはあります。

あんまり長いとそれはそれで疲れちゃうので、昨今の米国の小説みたいにすごく長い奴はおすすめしませんが、適当な長さの中編とか長編がおすすめかな。

あと、この文章のやる夫みたいにさくっと読めることはありません。とくに初めて読んだ本とかはそう。集中的に毎日読んで、それでも1章読み終えるのに1週間とか2週間とかかかったり。もう意味が分からなくなって読み進められなくなって挫折、なんてのもあると思います。それは誰しもが経験することで、全然恥ずかしいことじゃない。はじめはそんな感じで、いろいろ挑戦してみるのがいいと思います。だんだん慣れてきて読めるようになってきます。そうなったらしめたもの。最初に取り掛かった作品も読み返してみれば、案外読める、なんてことになるかも。

よくある誤解6: 英語の本なんか読まないでいい

で、いろいろ書いてみましたけど、基本的にこれをかいた人には賛成で、そんなにしんどいしよくわからないなら英語の本なんか読まないでいいや、って思うかもしれませんが、そんなことはないと思うんですよね。

英語を勉強するのは世界がどうこうとか、大層なことはいろいろ言えると思います。わたしの場合は仕事柄英語は必須で、英語がまったくできないのはまずいとか思ったりもします。でもそういうことじゃないんじゃないかな。外国語の本を読むというのは、外国語で書かれた本の翻訳を読むのとは少し違って、その国の文化を知るということでもある。言葉の構成やなりたちが日本語と英語ではあまりに違うので、こういうときに英語ではこういうふうに言うんだ、っていうのを知るのはとても面白い。それに、それは日本語や日本の文化を改めて相対的に眺め直すきっかけにもなると思うんです。

だから、外国語で本を読む、楽しみのために読むっていうのはおすすめです。英語の勉強はあくまでもついでだと思うべきですかね。私は「二周目」なんてやったことないし、メモとかは取りません。会話表現の実例とか、そんなのは言い訳だなーって思ってます。何を動機にするかは人それぞれですが、やっぱり「楽しみのため」っていうのは継続しやすい。それでもいろいろ読んでいけばなんとなく身につくものもある、かも。ぐらいでいいんじゃないかなぁ。

あと繰り返しになりますが、とくにはじめのころは本当もう無理!とかいう感じで挫折しますからね。日本語で読みたい本だっていっぱいあるのに、そんなに英語の本に時間取れない、とか思っちゃうし。でもそんなのは本当に普通のことなので、「だから自分は向いてないんだ」とはならないでほしい。しばらくしたら、また別な本にとりかかってみたり、改めて最初から読み返してみたり、してみてほしい。今度は挫折するまでにもうすこしかかるようになる。そうやっていくと、ちゃんと読み通せるようになります。

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