『代替医療のトリック』

This entry was posted by on Thursday, 4 March, 2010

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いや、これもしかして『代替医療のトリック』の宣伝のためにあえてボケてるのかと思ってしまいました。こんな不毛なことにならないためにも、ぜひサイモン・シンのこの新作を読みましょう。

この本でサイモン・シンは鍼灸も含めた4つの「代替医療」を検証しています。ただ、検証といっても大槻教授のように不毛ではなく、実際に効くかどうかというところを調べます。

この本で一番重要なのは、「ある医療行為に効果があるか、どうかということを検証する」ということを明確に説明しているところです。繰り返し本の中で述べられているように、数百年も妥当な処方だと思われていた瀉血は検証の結果、効果がないということがわかったのであり、その時点では科学的な妥当性は何もなかった「壊血病にはレモン汁」という処方も、検証を経たところ効果があるということがわかり、実際にはレモンに含まれるビタミンCが大事ということまで今はわかっているわけです。

とはいえ、検証というのは簡単に言えば事例をあつめるということですが、事例の集め方、妥当性、プラセボ効果など厄介な問題はいくつもあって、専門家でも誤ることは多いのです。豊富に事例が紹介されているのがこの本のいいところですが、そうした事例によって、一見単純に見える検証に対してどんな問題が起こるのか、それを回避するにはどうしたらいいかといったことが大雑把に理解できるようになっています。

また、読むと驚かされるのは、歴史のある代替医療であっても検証というのは最近でもずっと行われていて、時に結果が変わることすらあるということです。たとえば鍼灸は歴史がありますし、西欧にも70年代には広まっていったわけですが、2003年にはWHOが「何らかの効果はある」と認める報告を提出しました。ところがその後の研究によって、やはりごく限られた症状(吐き気など)以外にはプラセボ以上の効果がないことがわかった、みたいな話が飛び出します。正直、検証のための道具立てや方法なんてとっくの昔に確立されていたものだと思っていたので驚きました。

プラセボといえば、この本で素晴らしい点のひとつは最終章のプラセボに関する議論も挙げられるでしょう。プラセボと言っても、それで実際に効果があるんだったらいいんじゃないか? あえて、なぜ代替医療を排斥しないといけないのだろう? これにサイモン・シンは理詰めで答えて行きます。

とてもいい本でした。超おすすめ。

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