鹿野司『サはサイエンスのサ』
鹿野司さんという科学ライターがいる。代表作はやっぱり、『オールザットウルトラ科学』! ログインで毎号2ページの科学コラムは多くの少年を科学の道にいざなった(とおもう)。その鹿野さんが95年から15年もS-Fマガジン誌上で連載している(現在も継続中)連載コラムが「サはサイエンスのサ」で、本書はそれの一部からまとめたもの。『巨大ロボット誕生』から12年ぶりの単著となる。
一部をまとめたといっても、単に再録しているだけの本じゃなくて、ものすごくあれこれ手が入っている。たとえば、15年も前のエッセイなんか古びちゃってるかもだけど、データは新しいものに差し替えられていたりする。また、「カラダを変えるサイエンス」という生命科学ネタの章、「ココロを変えるサイエンス」として宗教や精神ネタの章、「セカイを変えるサイエンス」として人間の認知や社会の話、「ミライを変えるサイエンス」としてITと環境ネタ、という4つの章にわけられていて、毎号いろんなトピックだったものをこれらの章に改めて再配置。その上で、わりと独立してたエッセイをうまくつなげて、各回の境界をさほど意識しないように書き直している。連載を読んでいたという人も再読する価値のある本だ。
鹿野さんは科学ライターとしてユニークだと思う。ユニークさの第一はその軽い文体だ。飄々としてフマジメにすら見える文体は科学エッセイとしては珍しい。だいたい科学エッセイなるものは、だである調でお固く解説しがちなものなんだけど、鹿野さんだけ「なのねん」とかいう語尾で軽々と説明していく。妙に固いところがなく、でもわかりやすい。
第二は、独自の「俺理論」をわりと駆使しがちなところだ。科学ライターとしても、できるだけ正確に学者の言っていることをそのまま書き写したいタイプと、自分で咀嚼して紹介するタイプがいるが鹿野さんは断然後者だ。こういうタイプは、理解が浅いと悲惨な事になるのだが、鹿野さんはその俺理論も結構楽しく読めてしまうし、咀嚼しきってしまうから、「◯◯の研究のすごいところは、××なところだ」とか断言をわりとしてしまう。その断言に、なるほどと思わせるところやはっとさせられるところがある。
本当のことを言うと、鹿野さんの俺理論のなかには個人的には首肯しかねるところもある。本書を読んでいても、実はちょっとつらいところもあるにはあった。専門家にとっては「それはちょっと違う」とか「言い過ぎ……」みたいに感じるところもそれぞれあるんじゃないだろうか。ただ、全体としてはやっぱりとても面白いし、それに含蓄もある。広く読まれるべき軽妙なエッセイだと思っている。
おすすめです。