アレステア・レナルズ『量子真空』
あー…………どうでもいい。
面白いとかなるほどとか長いとか(笑)思うことはいろいろあるんですが、真っ先に思い浮かんだ感想は「どうでもいい」でした。ここまでどうでもいいと思ったことはないかもしらん。
前作『啓示空間』のあと、連接脳派たちは「ウルフ」と呼ばれる存在に気付く。遥か昔から知的生命を発見し殺戮するバーサーカー機械。このままウルフに感付かれれば人類は滅亡する。主人公たちはこの「ウルフ」に対抗するために奔走しはじめる……という今どき珍しくもない粗筋ですが、脇にちりばめられた大ネタ小ネタはわるくない。タイトルにもなってる量子真空まわりのSFガジェットや様々な設定。そして「なぜウルフはわざわざこんなことをするのか?」という謎はとても面白いし、そもそもこの疑問じたいがいわゆるバーサーカーものとしては珍しい問い掛けで面白いし、意表をつく答えもよかった。このシリーズは『啓示空間』も『カズムシティ』もそうだったけど、読み終えてみればつまんないという感想ではなかったんだよな。
しかしなんというか、何もかもどーでもいい。大ネタも真相もなにもかも。なんなんだろう、ここまで長いと「長かったなあ」という方にしか意識が向かわないんですかね。
続き、出るとしても読まないかも。かも。レナルズは短編の方が断然に面白いよなあ。
ところでわたしは『啓示空間』も『カズムシティ』も読んではいるんですが大して覚えてません。同じような人も多いと思います。あるいはそもそも読んでないとか。しかし覚えてなくても読んでなくても、ご心配なく。本作は楽しめます。といってもその理由は本作が独立性が高いからではなく。とくに『啓示空間』の登場人物はばんばん登場しますし、それ以外の短編のキャラなんかも入り乱れてのストーリーです。ただ作者は異様に親切でして、必要そうなところにちゃんと前作のあらすじ(の断片)を仕込んでる。既読なら「そうだったそうだった」と思い起こすし、未読なら「そうなのかあ」と思うわけで問題なしというわけ。
しかし、ということは、と思うわけですよ読みながら。あんだけブ厚かったのに、けっきょく短く語るならこんくらいで語れる程度の話だったんかいな、と。いやまあ、本当の本当にここで語られる粗筋だけで済むかっていうとそういうわけにもいかないとは思うんですが、そもそもレナルズの作家としての資質はそういう物語的なディティールというか容量というか、そういうところにはないように思うんですよね。要約でないにしても、この長さはないよなあと思わざるをえない。例によって「長さが1/3なら傑作だったなあ」という感じ。
おっと、 Wikipedia によると、2003年に出た次作 Absolution Gap が今のところこのシリーズで一番最後の作品なのか。この世界の長編はもう一本(The Prefect)あるが、これは時代的にはほかの作品より遡り、キャラクターなども同一ではないと。
前言を翻すけど、もう一作でひとまず決着がつくのであれば読むのもいいかもね。まあ Absolution Gap てのは『量子真空』よりも長いんですけど……!
最後の最後に。本作は原題は Redemption Ark というタイトル。 redemptionという単語は見慣れませんが英辞郎によれば贖罪という意味。てことで直訳するなら『贖罪の方舟』というところでしょうか。『量子真空』というタイトルでもべつにいいけど、なんでそうなっちゃったんですかね。まあ、そっちの方がSFSFしててこういうのが好きそうな人には売れそう、という理由かな(というか『贖罪の方舟』じゃぜんぜん売れなさそうというか)。
しかし、つまり、作者の意図としてはそっちのパートがメインのつもりだったんスか、もしかして。
補足(メンドくさいのでコメントで)。
長い長いと言われるけど、一冊にするからブ厚さが目につくだけで、実際にはたとえば『深海のYrr』を上中下ぜんぶあわせれば『量子真空』よりずっと長いんですよね。
単に長いのが問題なわけじゃなく、レナルズにはこの長さをまとめあげるだけの作家的腕力が足りないのかも。