ジェフ・ライマン『エア』
うーむむ……面白いかつまらないかとふたつに分けるなら面白い方に分類されるのだが、というもってまわった表現からわかるように、正直に申し上げてそこまで高い評価になる理由はよくわからなかった。決してつまらないのではなくよく書けているし悪くないのだが……。
タイトルの「エア」とは、近未来のインターネットみたいなネットワーク、ないしはそれに接続するためのデバイスの総称であるようだ。このエアというやつは人間の脳と直結してワイヤレスで接続する。架空の小国カルジスタンの山間の村は、世界で最後にエアが導入される地域のひとつ。このエア導入実験を皮切りに因習が支配していた村がすこしずつ変わりはじめる、という筋立て。
主人公はこの村でファッション・エキスパートをしている女性のメイ。彼女はこのエア導入実験の影響をもろに受け、しかし逆に活用しながら次第に活動を変えていく。実験の前、メイは町で仕入れた最新のファッション動向をもとに村の女性にファッションのアドバイスをしたり、お店を紹介したりしてお金を得ていた。それが政府の補助金を得、ウェブサイト(じゃないけど)を展開して民族衣装をベースにしたファッションビジネスを展開しはじめる。
この辺の設定はいいといえばいいんだけど、もはや(というか原書で刊行された 2004年当時でも)あまりにもごくふつうの物語ではないかという気がする。いくらマンデインだといってもどうしたものか。いちおう、エアのテクノロジーは架空のテクノロジーという意味でSFだし、世界中の人々が繋がって非可逆的に新しい時代を迎えるという意味では(ヴィンジ的な意味ではないが)シンギュラリティ的なヴィジョンをもったSFだとさえ言えるだろう。けれども物語のほとんどの場面においてエアは単にインターネットの言い換えでしかないし、こういう小説を読むくらいなら同じ題材でノンフィクションを読めばいいんじゃないかとすら思ってしまうのだな。
もうひとつ、ジェフ・ライマンはインターネットに関する話に疎いのだろう。メールアドレスやURLがあまりにもテキトーで、しかし中途半端に現在のメールアドレスやURLを模しているので作者のワカッテナイ感が妙に鼻につく。あと UNフォーマットとゲイツフォーマット(笑)の政治的な話とかにしても、現実のインターネットの標準化についての政治的な側面についてもべつに興味はないんだな、ということがわかるだけだった。いやゲイツフォーマットっていう名前は笑ったけども。
あと、あの妊娠はいくらなんでもどうなんだ、とか。とにかくそういうつまんないところが気になって仕方なかった。実際にはこの本を楽しむ上では、こういうオレが指摘したあたりというのはあってもなくてもど〜〜でもいいものだ。フォーマットの話とかは「ソレっぽさ」を醸し出すためのフレイバーなのだし、妊娠の話は文学的表現とでも解釈できるだろう。でも、それだけではどうしても片付けることができない違和感を感じるんだよな。
まあ、なんだかんだ言ってオレはワイバロ(笑)好きだから、マンデイン SFと価値観が合うわけないのかも、と思ったのであった。いや、彼らのマニフェストを読むと「ま、気持ちはわからんでもないよ」と思うんですけどねえ。ってなんでオレはこんなエラソーなんだ。
というわけで結論としては「肌に合わない」というきわめて主観的な結論なのでありました。
ああでも題材が題材だけに、たとえば山形浩生あたりの評価は聞いてみたいかも。