『予想どおりに不合理』

This entry was posted by on Wednesday, 26 November, 2008

予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」

予想以上に面白かった(って言う人は多そうだなー)。

この本は、行動経済学をキーワードに、ぼくたちがどんな不合理な決断をいつもしているか、ということを語り起こす。金額的な価値はむしろ相対的な点にしか着目しないとか、無料だと行動原理は簡単に変わってしまうとか、どういう場合に不正が行なわれるかとか……。

章ごとに語られる状況はそれぞれ異なっているが、そのすべてのトピックについて、いかにもぼくたちが遭遇しそうな不合理な選択をしてしまう場面を挙げて、さてそれは本当か、どういうことが言えるのか、ということを確認する実験が紹介され、その結果をもとに何が言えるかが語られている。その実験結果をもとに何が言えるかを語り起こすのだけど、この実験が面白い。たとえば、高級チョコとチロルチョコのどちらか一個だけを一人に選ばせる。高級チョコは16円、チロルチョコは2円で。差額は14円で、ただまあ高級なチョコの方が売れ行きがいい。差額そのままに15円と1円にしても、売れ行きの比率はさほど変わらない。ところがこれが14円と0円になったとたんにチロルチョコに人気が集まる……とかいう具合(細かいところが知りたい人は本書を読もう)。

つまるところ、基本的に認知心理学の実験なんだよね。知らずに書くけど、行動経済学自体がそもそもそういうもの(認知心理を経済学のフィールドに持ってきたようなもの)であるらしい。認知心理の実験(とくに優れた実験)というのは、ちょっとした実験環境における行動の比較によって普段ぼくたちがあんまり意識せずにやっていたことをつまびらかにしてくれるので、個人的にけっこう好きだが、この本の実験はどれもこれもそういう面白さがある。それに、ここで書かれていることはほかにも応用が効くかもしれない。いや、面白かった。

ところで――

この本のタイトルはぼくは少し前に知ったんだけど、みなさんは不思議に思わなかったろうか。ぼくは思った。確かに経済学では合理的なプレイヤーというのを想定する……らしい。ぼくは経済学はそもそもよく知らないのだけど、そもそも現実的には合理的な人間というのがナンセンスだということは誰だって知っているはずだ。予想したとおり人間は不合理だった。それが何か? 同時期に出た本に『人は意外に合理的』というタイトルの本もあるけど、こっちの方が「へえ」と感じる度合いは大きい。

ましてや、本書で書かれていることっていうのはそんなに意外な内容じゃない。検証された事実だけに注目するなら、どちらかといえば「あーあるある」という内容でしかない。無料だとなんとなく流されるとか、エロい気分になると暴走しがちになるとか、嫌なことは先延ばしにしてしまうとか、予断が入ると正確な評価ができないとか、順番に頼むとなんとなく違う料理を注文しがちとか、それほど意外なことは書いていない。

ただ、そこがこの本の核心なのだった。実際にはまえがきにすでに書かれているのだけど、人間が不合理だということは誰でも知っている。でも人間の不合理さには一定のパターンがあってしばしば予測可能になるというのが、そもそも著者の主張なのだった。不合理というときに、そうそうまったくデタラメになったりしなくて、不合理性はわりと予想可能である。

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もうひとつ、わたしの考えでは、わたしたちは不合理なだけでなく、「予想どおりに不合理」だ。つまり、不合理性はいつも同じように起こり、何度も繰り返される。消費者であれ、実業家であれ、政策立案者であれ、わたしたちがいかに予想どおりに不合理かを知ることは、よりよい決断をしたり、生活を改善するための出発点となる。

そういう点はちょっとミスリーディングなタイトルだと思いました(ただなんだ、こういう誤解は『人は意外に合理的』と隣りあって並べられてるからこそかもしらんね)。

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