小川一水『フリーランチの時代』
SFM掲載時からこの表題作「フリーランチの時代」が妙にひっかかってる。これは大いなる愚作だと思う。気に入らない作品だが、そういう自分をどう正当化したものかで攻めあぐねている感じ。
わかりやすく悪役めいて人類を滅ぼすだけの能力をもった宇宙人がやってきて人類を同化してしまう。ようするにこれは伝承族が勝利するマップスなんだよな。そこの違和感があるのだが、しかし悪役ぽい設定のやつがいっけんよくあるSFでは悪いこととされることをしているのが実はハッピーエンドにつながるというのは話の前提というかコンセプトみたいなもので、そこがヒネてるのがイカンと文句をいうのは馬鹿だ。
ひとつどうしても気になるのは、人類側が誰も拒絶をしない(ように読める)ところかもしれない。論理的な帰結として受け入れるのが正しいとしてもそれを受け入れない人は一定数いる。そういう話じゃないからとはいえ、そういう可能性を無視してのほほんと書いてるのが気にさわるのかもしれない。そういうことにしておく。
この短編集には、不死や人間の生死についての印象的な短編もほかにいくつか入っている。「千歳の坂も」は医療が発達してしまった結果として、いつのまにかどうも不死性を獲得してしまった世界の話。医療処置を受けずに自然死を望む場合にむしろ老化税と死亡処理手続き積立金が徴収される……。こんな異様なのに妙にしみじみとしたいい話になるのが面白い。このなかではベストではないかと思う。
「Live me Me」は初出は同人誌。うーん、持ってると思うけど読んだ記憶がないなあ。突然の事故でほとんど脳死状態になった女性が最新医療によって奇跡的な復活を遂げ、遠隔操作ロボットで生活をはじめ、そして……という設定。結末はいまどきとなっては珍しくもない気もするが、個人的には気に入っている。
他。「Slowlife in Starship」は人嫌いで引きこもりの宇宙船乗りがぐだぐだと自己を肯定する話、というか。いわゆる宇宙船乗りというのは海洋船舶もののノリで荒らっぽいやつらというのがよくある話だけど、実際のところほとんど独りで何にもない空間をゆっくりと旅するところからイメージを逆転させた、といったところか。この短編集のなかではひとつ落ちる気がする。「アルワラの潮の音」はほかの長編の外伝。短い枚数でエンターテイメントしてて面白くてよい。