岸本佐知子編『変愛小説集』
岸本佐知子が好きそうな作家ばかり、変な愛についての短編を載せたアンソロジー。変てこで気にいったものもあるが、正直にいえばわけがわからなかったり、あんまり面白いとは思えないものもあり。しかし水準は高い。
いくつか気にかかったもの。
アリ・スミス「五月」
裏手のほうにある他人の家にはえた木に恋した人物の話。いかにも変でありながら、物語に入りやすい語り口と構成。物語はその人物と、その人物の恋人という2つの視点で語られるのだが、原文はどちらの性別ともとれるような文体であったらしい。それをこう訳すあたりが岸本佐知子らしさ。
ジュリア・スラヴィン「まる呑み」
主人公は不倫相手の庭師の男とキスをしたとき、なぜかそのまままる呑みにする。青年はそのまま胃袋で暴れたり悶着があったりし、それからなんとなく終わる(笑)。ヘンだけど説明しづらいなー。胃袋の中の男の下品な台詞が面白い。
A・M・ホームズ「リアル・ドール」
妹のバービー人形との恋愛。なぜかバービーは言葉をしゃべり、主人公と会話をはじめる。主人公も相当歪んだ性格なのだが、登場するキャラクターはほかもほとんど狂っている。
スコット・スナイダー「ブルー・ヨーデル」
男は車を駆り、飛行船を追う。そこには結婚を約束した女性が乗っているのだ……。追跡行と男の過去の回想で構成される短編だが、男の生業が樽に入ってナイアガラの瀧下りをする人を発見して救助隊に連絡する係であるとか、恋人とのなれそめが蝋人形館で女性が蝋人形のふりをして客をびっくりさせる仕事をしていたときに男がやってきたことであるとか、誰もおらず屋内に雲のある建物であるとか、そういう細かいところがいい。
ニコルソン・ベイカー「柿右衛門の器」
主人公の大伯母は英国の磁器が好きでいろいろ集めている。とくに牛骨の粉を混ぜた陶器が好き。長じて主人公が陶芸家となっても、主人公がつくった陶器を見ては「牛を感じない」と評したりする。主人公は本物の牛の骨を使った磁器をつくるべく、そのための牛を探す。オチはふつうかな。牛が評価基準になってる大伯母の台詞がいちいち面白い。
あと、イアン・フレイジャー「お母さん攻略法」は「それなんてエロマンガ」という話でした。タイトルそのまんますぎて絶句。