ケリー・リンク『マジック・フォー・ビギナーズ』
ヘンテコ文学作家ケリー・リンクの第二短編集。
リンクについての持ち味は、柴田元幸氏の解説にもあるんだけど、よくありそうな(アメリカの)日常的な風景にゾンビとか宇宙人みたいなものが微妙に入り交じりながら、「物語の定型からずれつづけ、定型の関節を外しつづける」ヘンテコな内容ばっかり書いてある。
で、しかもそれ自体でけっこう面白い。物語の裏側を読んでも、単にそこにこもった情感だけでも。
ただなんというか、以前とくらべてだいたいどんな作品も生と死、死者の実在、ゾンビ、といったモチーフが用いられるようになってしまった気がする。リンクにとっての死者というのは、わかりやすい生と死の対比とはならず、上で引用した柴田氏の解説のように定型からはズレつづけるのだけれど、ただしリンクのなかでの用法はわりに一貫していて、ようするにそれは交感不能な存在である。生者と死者の交わりはディスコミニケーションの直喩だか暗喩だかでしかないわけだな。
それ自体はケシカランと怒るつもりはないのだけれど、そんなわけで本書は定型からズレ続けるわりには不思議と一本調子になってしまったきらいがある。そんな風に思った。前書『スペシャリストの帽子』の方が、まだバリエーションがあったのではないかなあ。
もっとも、まさにその類型というべき「大いなる離婚」という短編はけっこう面白く読んだわけで、それが本書に対する若干の不満の主因なのかどうかはちょっと決めかねている。