牧眞司『世界文学ワンダーランド』
ところでさいきん日記が滞りがちですが、ふつうに生きています。あと、あろはさんのところで MacPorts とかの発言をしているのは私です。
さて。
「文学」っていうと、堅苦しくて面倒くさくて、衒学趣味の人間がわかったようなことをうそぶくためにあるのだと相場が決まっている。というのは極論だが、なんとなくそんな印象がある。本書で牧さんが打破したいのは、そんな状況なのかもしれないと思う。もっとカジュアルに文学を。
「文学は最高のエンターテイメントだ」と牧さんは言う。
>文学は、書くほうがなんでもありなら、読むほうだって自由で気ままだ。べつにルールやマナーがあるわけではない。高級レストランで食事をするわけじゃないのだ。むしろ、ぼくのイメージでは、文学というのは激辛料理とか腐敗臭のするフルーツに近い。異常・極端・珍奇であり、だからこそ人の関心を引く。ついつい挑戦してみたくなる。最初は抵抗感もあるが、あんがい美味しいかもしれない。やみつきになるかもしれない。
というのが、まえがきの主張。本書は、この名調子で古今東西の世界文学を紹介していく。
ともかく、まえがきをひとまず読んでほしい。それで興味を引かないならそれでいい。人には向き不向きってのがあるし、どんなものでも楽しめない人というのはつねにいる。それはべつに優劣の問題じゃなくてむしろ好き嫌いの問題だろう。それにまあ、わたしだって牧さんの勧めるすべてが面白いと言っているわけじゃない……なんせこの本にしても、紹介している本に未読が多すぎて、どっちとも言えないのだ、恥ずかしながら。もっといろいろ読んでから紹介したかったのだけど、そんなんじゃいつまでたっても書けないしね。
何にしても、この本のいいところは、どの文章も実に面白そうだってことだ。まえがきを読んでほしいのはそのエッセンスが凝縮しているからだが、本文もそれぞれに、それぞれの本を実に魅力的に紹介する。片端から読破したくなる。これを読んでしまってその熱気にアテられ、わたしの知り合いのSFファンの間ではにわかに世界文学ブームが巻き起こりつつあるくらいだ。わたしもついつい『エペペ』に手を出した。その調子でブームになって欲しいもんだ。
もちろん、文学をちゃんと研究する研究者を志す人にとってこの本が役に立つかというとテンデ役には立たないと思うが、ぼくらは文学の研究者になりたいわけじゃなくて単に本を読んで楽しみたいわけであり、そういうとき、この本は優れたガイドブックになる。
と、思う。
余談だけど、こないだのペレーヴィンの『恐怖の兜』(→感想)も、そういう類の(珍奇な)文学だと思っている。そういえば、この日記のリファラから検索キーワードを漫然とながめていたら「恐怖の兜 結末」なる検索語句の人がいたようなのでこのさいだから書くんだけど、あの作品、結末なんかどうだっていいんですよ。通常の意味での物語なんていうものはない……うん、ない、と言いきってしまおう。はじまりも、あるようでないし、おしまいもない。すべては『恐怖の兜』である。はてなブックマークでクリップしてくれた人たちの興味の持ちようを見ているとこの人たちは面白がれるのかと不安になってくるのだけど、ただしかし、想像していた以上の強烈さを持った作品であるとは、改めて申し添えておこう。